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Lung Cancer Topics 2025 No.1 欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2025)

2750O
進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)に対する一次化学療法+免疫療法とタルラタマブの併用:DeLLphi-303試験
Tarlatamab with first-line chemo-immunotherapy for extensive-stage small cell lung cancer (ES-SCLC): DeLLphi-303 study
Martin Wermke 先生
(University Hospital Carl Gustav Carus, Dresden University of Technology)

 進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)の一次治療の導入療法と維持療法に、二重特異性抗体タルラタマブと抗PD-L1抗体の併用を検討した第Ⅰb相DeLLphi-303試験(Part 2、4、7)の結果が報告された。本併用療法の安全性は管理可能であり、有効性においても良好な生存転帰を示した。これらの結果を踏まえ、現在は第Ⅲ相DeLLphi-312試験が進行中である。

 タルラタマブは、がん細胞表面に発現するデルタ様リガンド3(DLL3)を標的とし、同時にT細胞表面のCD3と結合する二重特異性T細胞誘導抗体である。ES-SCLCに対しては、二次治療での単独療法を検討した第Ⅲ相DeLLphi-304試験1や、一次治療で抗PD-L1抗体との併用維持療法を検討した第Ⅰb相DeLLphi-303試験(Part5、6、8)2で、いずれも良好な安全性と有望な生存転帰が示されている。

 本試験の登録基準は、①ES-SCLC成人患者で化学免疫療法を1サイクル完了(治療反応は問わない)、②修正版RECIST1.1による測定可能病変を有すること、③ECOG PS 0または1、④治療済みの無症候性脳転移例を許容、⑤活動性自己免疫疾患または免疫抑制療法を要する疾患がない、などが含まれた。

 導入療法(サイクル1~3)では、カルボプラチン+エトポシドと抗PD-L1抗体(アテゾリズマブまたはデュルバルマブ)に、タルラタマブ(20mg を3週毎投与)を併用した。維持療法(4サイクル目以降)では、抗PD-L1抗体(アテゾリズマブまたはデュルバルマブ)とタルラタマブ(20mgを3週毎投与)を併用し、病勢進行まで継続した。

 主要評価項目は、用量制限毒性(DLT)、治療中に発現した有害事象、治療関連有害事象(TRAE)、副次評価項目は奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)であった。なお、本試験は薬剤間比較を目的とせず、タルラタマブ併用レジメンの安全性と有効性の確認を主目的とした。

 計96例が登録され、抗PD-L1抗体としてアテゾリズマブを投与したのは56例、デュルバルマブは40例であった。ベースラインの患者背景は、年齢中央値63.0歳、白人74%、アジア人16%、現喫煙者18%、元喫煙者75%、脳転移あり16%、肝転移あり45%、標的病変の直径中央値82.3 mmであった。

 観察期間中央値は13.8カ月、治療期間中央値は46週間であった。DLTは3例に発現し、内訳は免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)1例、血小板減少症1例、血小板減少1例であった。TRAEのグレード3および4は各々43%、35%で、その大半は化学療法に起因する血球減少系の毒性であり、カルボプラチン/エトポシドを投与した最初の3サイクル中に発現していた。致死的なTRAEは1%(カルボプラチン/エトポシドによる敗血症性ショック1例)であった。タルラタマブの投与中止に至った症例は6%で、タルラタマブ関連死は認められなかった。サイトカイン放出症候群(CRS)やICANSおよび関連神経イベントを除く免疫関連有害事象は2%であった。

 CRSとICANSは主にタルラタマブの1サイクル目に発現し、多くがグレード1~2であった[1サイクル目における発現率(全グレード):CRS 59%、ICANS 5%]。CRSまたはICANSにより タルラタマブの投与中断に至ったのは各々1%、投与中止に至ったのも各々1%であった。いずれも致死的事象はなく、全例が回復した。最後のタルラタマブ 投与から発現までの時間中央値は、CRSが13.3時間、ICANSが5日であった。

 有効性解析では、ORRが71%、このうち完全奏効が5%、DCRは82%で、39%が52週以上病勢コントロールを維持した。また、DOR中央値は11.0カ月で、データカットオフ日時点において49%が奏効を維持していた。OS中央値は未到達、12カ月OS率は80.6%、PFS中央値は10.3カ月、12カ月PFS率は43.1%であった。

1. Mountzios G, et al. N Engl J Med. 2025; 393: 349-361.
2. Paulson KG, et al. Lancet Oncol. 2025; 26: 1300-1311.

監修 秦 明登先生のコメント

タルラタマブを一次治療の化学免疫療法に併用したデータである。プラチナ併用療法+免疫チェックポイント阻害薬+T-cell engagerの4剤併用で、忍容性の懸念があったが、100例規模のPhase Ⅰb試験である本試験のデータでは、有害事象、特にCRS・ICANSの頻度・重症度も問題ないようである。有効性については特筆すべきものがあり、12カ月OS率:80.6%、PFS中央値:10.3カ月、12カ月PFS率:43.1%と、従来の化学免疫療法の第Ⅲ相試験のデータが12カ月OS率:約50%、PFS中央値:約5カ月、12カ月PFS率:約20%であることを考えると驚異的である。本試験はPhaseⅠb試験であるが、100例ほどの症例数があり、検出力は高い。現在、一次治療の同レジメンの有用性を検討する比較第Ⅲ相試験(DeLLphi-312)、一次治療の化学免疫療法後の維持免疫療法へのタルラタマブ併用の有用性を検討する比較第Ⅲ相試験(DeLLphi-305)が行われている。