Sacituzumab tirumotecan (sac-TMT) vs platinum-based chemotherapy in EGFR-mutated (EGFRm) non-small cell lung cancer (NSCLC) following progression on EGFR-TKIs: results from the randomized, multi-center phase 3 OptiTROP-Lung04 study
(Sun Yat-sen University Cancer Center)
*国内未承認
EGFR-TKI治療後に進行したEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、抗TROP2抗体薬物複合体(ADC)のsacituzumab tirumotecan*(Sac-TMT)は、プラチナ系製剤を含む化学療法と比べ、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に延長したことが、中国で実施された第Ⅲ相OptiTROP-Lung04試験から明らかにされた。
TROP2はEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者の多くに発現し、EGFR-TKI耐性との関連性が認められるタンパク質である。一方、Sac-TMTはTROP2を標的とするADCで、独自の二官能性リンカーによりトポイソメラーゼⅠ阻害薬を効率的に腫瘍細胞へ取り込ませる。
本試験の主な適格基準は、①ⅢB/ⅢC期またはⅣ期の非扁平上皮NSCLC、②EGFR変異陽性、③T790M変異陰性で第1、2世代EGFR-TKI治療後に進行、またはT790M変異の有無に関わらず第3世代EGFR-TKI治療後に進行、④ECOG PSが0または1であった。Sac-TMT群(5 mg/kgを2週毎投与)または化学療法群(ペメトレキセド500mg/m2+カルボプラチンAUC 5またはシスプラチン75mg/m2を3週毎最長4サイクル施行後、ペメトレキセドの維持療法)に無作為に割り付けし、病勢進行、忍容できない毒性の発現、患者希望による中止に至るまで治療を行った。
主要評価項目は盲検下独立中央判定委員会(BICR)の評価によるPFS、主要な副次評価項目はOSで、治験責任医師評価によるPFS、奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、安全性も評価された。
376例が登録され、各群188例が割り付けられた。ベースラインの患者背景は2群間で均衡していた。65歳以上がSac-TMT群30.9% 対 化学療法群27.1%、喫煙歴なしが77.1% 対 71.8%、Ⅳ期が96.8% 対 98.4%、脳転移が17.6% 対 19.1%であった。EGFR変異のサブタイプはエクソン19欠失が56.4% 対 62.8%、エクソン21 L858R変異が44.7% 対 37.8%、T790M変異陽性は15.4% 対 19.1%であった。第3世代EGFR-TKIは一次治療で62.8% 対 62.2%、二次治療で2群とも31.9%が受けていた。観察期間中央値は18.9カ月(データカットオフ日:2025年7月6日)であった。
BICR評価によるPFS中央値は、Sac-TMT群8.3カ月、化学療法群4.3カ月で、Sac-TMT群の有意な延長が示された[ハザード比(HR)0.49、95% CI: 0.39 – 0.62、p<0.0001]。12カ月PFS率は32.3% 対 7.9%であった。サブグループ解析においても、全ての事前に設定されたサブグループで一貫してSac-TMT群の優位性が示された。治験担当医評価でも同様の傾向が得られ、中央値はSac-TMT群8.4カ月、化学療法群4.8カ月、HRは0.51(95% CI: 0.41 – 0.65、p<0.0001)、12カ月PFS率は34.7% 対 10.7%であった。
OS中央値(中間解析)は、Sac-TMT群未到達、化学療法群17.4カ月(HR 0.60、95% CI: 0.44 – 0.82、p=0.001)で、Sac-TMT群の有意な延長が示された。18カ月OS率は65.8% 対 48.0%だった。また全サブグループでSac-TMT群が良好であった。
1種類以上の後治療を受けた割合はSac-TMT群72.3%、化学療法群85.5%であった。主な後治療の内訳は、Sac-TMT群がEGFR-TKI 42.6%、化学療法41.9%(ペメトレキセドを含む化学療法37.2%)、血管新生阻害薬34.5%、化学療法群は化学療法53.6%(ペメトレキセドを含む化学療法12.8%)、血管新生阻害薬48.0%、EGFR-TKI 39.7%であった。化学療法群では19.6%が後治療としてADCを受けており、これらの症例をADC開始日に打ち切り解析したところ、OSのHRは0.56(95% CI: 0.41 – 0.77)となった。
ORR(BICR評価)はSac-TMT群60.6%、化学療法群43.1%で、Sac-TMT群が有意に高かった(差+17.0%、95% CI: 7.0 – 27.1)。DCRは87.2% 対 80.3%、DOR中央値は8.3カ月 対 4.2カ月であった。
治療曝露期間中央値はSac-TMT群9.6カ月、化学療法群4.9カ月と、Sac-TMT群が長かった。治療関連有害事象(TRAE)は、全グレードが100% 対 98.4%、グレード3以上が58.0% 対 53.8%であった。重篤なTRAEは9.0% 対 17.6%、投与量減量を要したのは30.3% 対 22.5%、投与中断が36.7% 対 33.0%であった。Sac-TMT群では投与中止や死亡に至るTRAEはなかった。Sac-TMT群で高頻度に発現したTRAEは、貧血(全グレード85%、グレード3以上11%)、白血球減少(84%、28%)、脱毛症(84%、0%)、好中球減少(76%、40%)、口内炎(62%、5%)などであった。また、眼表面毒性が9.6%に発現したが、全例グレード1~2であった。間質性肺疾患、肺臓炎の発現はなかった。
監修 秦 明登先生のコメント
現在までに、複数のTROP-2を標的とするADCのEGFR-TKI無効後の比較第Ⅲ相試験が行われているが、PFSおよびOSの双方でpositiveであった初のデータである。OS、PFSに加え、奏効率、DORも良好であり、Sac-TMTのこのpopulationにおける有効性が示された。有害事象に関しては、既存のTROP-2 ADCと同様のプロファイルであり、特徴的なものとして、口内炎や角膜炎などの粘膜障害が挙げられるが、重篤なものの頻度は低い。肺臓炎の発現はなかったとのことであるが、日本人での安全性を確認したい。
本試験は中国のみで行われたが、グローバルおよび本邦での有効性と安全性が再現されるか注視していきたい。